モビリティDXとは? 国家戦略の背景や3つの重点領域、対応のポイントを解説

現在、自動車業界ではSDV(Software Defined Vehicle)という次世代の自動車の実現に重点が置かれています。国内では経済産業省・国土交通省が「SDVのグローバル販売台数における日系シェア3割」を目標とした国家戦略である「モビリティDX戦略」を共同で策定しました。モビリティDXは、国内の自動車産業の競争力強化を進める取り組みであり、SDV・モビリティサービス・データ利活用という3つの領域の強化を図ります。本記事では、モビリティDXについて、策定された背景や各領域、推進における課題などをご紹介します。
モビリティDXとは?
モビリティDXは、国内における自動車産業の競争力強化を目的とした、経済産業省と国土交通省が推進する国家戦略です。「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア・デファインド・ビークル)」「モビリティサービス」「データ利活用」という3つの領域でのデジタル変革を目指し、車両の抜本的な刷新をはじめ、自動運転技術を活用したビジネスモデルの確立などに取り組みます。
なかでも、SDVはモビリティDXにおける中心の概念であり、クラウドを介した通信で車両の機能を継続的にアップデートすることができる次世代の自動車です。車両の価値は購入後低下していくのが一般的ですが、SDVであればアップデートを通じて新たな機能が追加されるため、価値が継続的に向上する可能性があります。現在、SDVの需要は増え続けており、自動車は「所有」する存在から「アップデートし続ける」存在へと変化しつつあります。
モビリティDX戦略が策定された背景
昨今のグローバル市場はGX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)の2軸で産業構造の変化が進んでいます。
特にDX領域の環境は、大規模な投資の拡大による技術向上の後押しや、AIをはじめとする最先端技術の活用など複数の要素により大きく変化しました。海外の自動車メーカーはSDV化やOTA(Over-The-Air)機能の先行展開のほか、システム開発に必要なソフトウェア関連の人材確保を急速に進めるといった、優位性を確立するためのアクションを早い段階で起こしています。
こうした激化する国際競争に勝つためには官民の連携が不可欠であることから、国内では2023年度に「モビリティDX検討会」が開催。その後も官民連携で検討が進められ、2024年5月に国家戦略として「モビリティDX戦略」が策定されました。
モビリティDXの3つの重点領域
モビリティDXにおいて官民が連携して取り組むべき重点領域は「SDV」「モビリティサービス」「データ利活用」の3つです。SDV領域では、APIの標準化を進めて開発に要する時間を大幅に短縮し、モビリティサービス領域では2030年という期限に向け自動運転バスをはじめとする、人手不足に対応できるようなビジネスモデルの確立を並行して検討しています。
また、こうした取り組みで発生するデータを新サービスの創出につなげられるようにデータ連携の基盤構築にも着手するなど、各領域の取り組みは個別ではなく相互に連携しつつ推進するように計画されています。

出典:経済産業省ニュースリリース「「モビリティDX戦略」を策定しました」
SDV領域
SDV領域では、ソフトウェアによって車両の価値を高める次世代車の開発・普及を目指しています。車両のSDV化を進めるにあたり求められる要素は多く、グローバル市場でシェアを獲得できるだけの競争力や、継続的なソフトウェアアップデートを可能とする仕組みづくりも必要です。
具体的には、ハードウェアと制御ソフトウェアで細かい調整が必要だった従来の開発プロセスを見直し、生成AI技術などを活用したソフトウェア主導の開発へと移行を進めています。また、APIの標準化を図るだけでなく、高負荷なデータ処理が求められる自動運転を可能にする、高耐圧・高効率な車載半導体(SoC)の開発にも併せて着手しています。
また、SDVはOTAという無線ネットワークを活用した通信機能を、どの段階まで車両に搭載しているかで次のように分類されます。
インフォテイメントのみのOTA
OTAで自動車内のカーナビゲーションを最新版に更新したり、オーディオに機能を追加したりできる。
インフォテイメントに加えて制御系を含む「一部」のECUのOTA
車両の安全性や操作性に関する機能を常に最新版に更新できる上、自動車に発生した一部の故障をディーラーに行くことなく解消できる。
インフォテイメントに加えて制御系を含む「複数」のECUのOTA
複数のECUにOTAを導入することで柔軟なアップデートが可能に。一方で、サイバーセキュリティのリスクやハードウェアコストなどの懸念点がある。
モビリティサービス領域
モビリティサービス領域は、自動運転をはじめとするモビリティサービスの実装に関する領域です。昨今の労働人口減少に伴うバス・トラックなどの運転士不足という社会的要請に早期に応えるため、この領域では地方も含めた自動運転ビジネスモデルの確立を中心に活動します。また、一般車両や歩行者、自転車などが入り交じる混在空間でのインフラ協調型システムの実証を重ねており、レベル4の自動運転移動サービスを社会実装するための開発も進めています。
海外ではすでに、無人運転のロボットタクシーの商用サービスが実現されていますが、国内でも市販大型トラックを改造し、自動運転の実証走行を開始するといった動きを見せています。政府はこうしたプロジェクトを推進することが重要であると捉え、継続的な情報発信や環境整備を進めており、将来的には新しい交通社会を実現することを目指しています。
データ利活用領域
データ利活用領域は、モビリティサービスの実証から得られるデータを、ビジネスの創出と活性化に生かすための領域です。その効率を高めるために学習基盤や計算基盤の整備を急いでおり、走行データをシミュレーションやAIで検証して次の開発に生かす「データ駆動型開発」の推進を中心に取り組んでいます。
ほかにも、Catena-X(欧州発のデータ共有プラットフォーム)との相互接続に向けた実証や、日本国内の「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」との連携に向けた検証なども進めます。
また、車両の製造、利用、廃棄までのサイクルで関わる各企業の蓄積データを、安全な共有プラットフォーム上で連携させ、データ活用の活性化を図るとともに、サプライチェーンの強靭化も目指しています。
モビリティDX推進における課題
モビリティDX推進における課題は、ソフトウェア人材の確保と育成の2つです。自動車業界の各社は外部からの採用や社内教育による人材育成を図っていますが、IT関連の高度な知識に加え、自動車業界特有の専門性も求められるため、人材の確保が難しかったり、ノウハウをそもそも有していなかったりするのが現状です。
これらの課題は、自動車関連の事業を展開している企業単独では解決が難しく、他業界の企業や政府が横断的に連携して取り組む必要があります。今後、自治体や海外のコミュニティが活性化し、開発環境が整備されていけば、モビリティDXの実現に向けたハードルは着実に下がっていくと考えられています。
ソフトウェア人材の確保・育成
SDV化に伴い、従来の機械系エンジニアに加えて、ソフトウェア人材の需要が高まっています。2030年にはSDV開発に必要なソフトウェア人材が約5.1万人不足すると予測されており、国内外での人材確保が喫緊の課題となっています。
政府は、自動運転に関する開発人材を確保するための学生向けイベントの定期的な開催のほか、自動車技術会と連携してスキルセットを体系的にまとめた「SDVスキル標準」を策定しました。SDV開発において重要なポジションの管理者、専門技術者、クラウド技術者など合計31の職種のキャリアを再定義し、求職者とのミスマッチ解消や評価制度の最適化を支援しています。
しかし、国内の人材だけで不足分を賄うことは困難なため、各企業は海外の大学や研究センターと共同研究で連携し、現地で人材を獲得できるように取り組んでいます。
モビリティDXプラットフォームの取り組み
経済産業省は、2024年10月に人材確保やスタートアップとの協業促進を目的とした「モビリティDXプラットフォーム」を立ち上げました。同プラットフォームは新規プロジェクトの検討や情報共有、企業間の連携促進などを目指す新しいコミュニティです。設立に至った背景の一つには、各社が同一機能を持つアプリケーションを個別に開発した結果、ユーザー(UX)の観点で非効率な乱立状態に陥っている現状があります。
具体的な活動として、共有のサービスやアプリケーションプラットフォームを構築するためのシステム要件定義や仕様検討を行うほか、既存プロジェクトの動向を共有するといった情報連携の推進が挙げられます。
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ここまで、モビリティDXについて、その概要や策定された背景、重点領域、課題などをご紹介しました。モビリティDXの取り組みでは官民の連携以外にも、異業種の企業との交流が不可欠です。
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